連載コラム

最終更新日 2016/08/01

実際にあった、ネットの書き込みで名誉棄損裁判事例

「口は災いのもと」と言いますが、相手を傷つける意図がない発言、深く考えずに口をついて出たことでも、人によっては名誉棄損やプライバシーの侵害と受け止めることもあります。口頭でのやり取りに加えて、現代社会では「ネットの書き込みは災いのもと」ともいえるでしょう。口頭と違いネット上の記録は半永久的に残るためより注意が必要となります。実際に裁判になった、珍しいケースをご紹介します。

訪問介護員が利用者のプライバシー情報をブログに書き込んだことが有責とされたケース

著名人だったA氏宅に入ったヘルパーBが、自身のブログに次の様な記事(一部抜粋の上編集。実物は実名、日付等も明示。)を書き一般公開しました。

『私は〇月〇日から〇〇区(以下略)にてAの訪問介護を担当することになった。このお宅を切り盛りしているのはA氏の養女C。Cは仕事の傍らAを「とうちゃん」と呼び慕いながら献身的な世話に当たっている。仕事は、外灯を消し、雨戸を開け、Aのお着替えし、朝食用意…私が8時ちょうどに居間に上がると、寝巻きの上に外行きの上着を羽織って徘徊するAがいた。入れ歯もご自身ではめることができないので私がはめて差し上げる。Aちゃん、長いことあんぐりと口をあけさせちゃってゴメンね☆どんな輝かしい経歴の持ち主でも、ボケる時はボケるのだね。「Aちゃん@認知症」の情報漏えいなんてさ、実害あるか?第一、当のAちゃんは認知症だから、損害賠償なんてしないわ!!』

事実を知ったA氏は、ネット上にA氏のプライバシーを侵害し、名誉を毀損する記事を掲載したことによって損害を被ったとして、B及び当時Bを雇用していた被告会社に対し、それぞれ1000万円の損害賠償の支払を求めました。これに対し東京地裁判決では、ヘルパーB個人に150万円、会社に130万円の慰謝料の支払い命令がそれぞれ下されました(平成27年9月4日東京地方裁判所判決)。

…いかがでしょうか。ここまで赤裸々に書いてしまえば責任は免れないのでは、と思われる方が大半かと思われます。ですが、B氏もまさかここまで大ごとになるとは想像できなかったのでしょう。本件ブログが違法・有責とされた根拠は、大別して「プライバシー侵害」と「名誉棄損」とがあります。それぞれにつき見ていきましょう。

プライバシー侵害について

本件の様に人の私生活を公開することがプライバシー侵害として不法行為となるには、裁判上「その公開された内容が、私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあることがらであること、一般人の感受性を基準にして被侵害者の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、一般の人々にまだ知られていないことがらであることが必要である。」とされています。要するに、普通の感覚であれば他人に公開されたくない様なプライベート情報を無断で公開してはならないということです。Bのブログは、認知症を患っているA氏の自宅における日常の様子を公開するものであって、プライバシー侵害に当たると認定されました。

名誉棄損について

名誉毀損とは「公然と事実を摘示して、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価の低下をもたらす行為」のことをいいます。裁判上は「一般の読者の通常の注意と読み方を基準として判断すべきである。」とされています。Bのブログは、「A氏が認知症に罹患していること、それが薬を服用する理由がわからない程度に進行していること、の各事実を摘示するものと認められる。そして一般の読者の通常の注意と読み方を基準とすれば、上記の事実の摘示はA氏の社会的評価を低下させるものである。」と認定されました。

雇用会社にも責任?

本件では、ブログの作成が業務時間外になされたにも拘わらず、雇用主である会社も同時に提訴され、責任ありとされました。裁判において会社は、「従業員の私的な時間におけるブログの書込み行為まで制御することはできず、選任及び監督について、相当の注意をしていたので責任はない」と主張しました。しかし判決は、「訪問介護事業は利用者の私的領域である自宅にて介護を行う以上、必然的に利用者のプライバシー等に触れることになるところ、近年では個人がインターネット上に情報発信を行うことも容易にできる状況にあることを考慮すれば、訪問介護事業者としては、その従業員の選任及び監督にあたっては、利用者のプライバシーや名誉を侵害することがないよう従業員を十分に指導監督する必要があるというべきであるのに、被告会社においては、Bに関しては、この点について何らの注意が払われていなかった。したがって、被告会社は、Bの選任及び監督について相当の注意をしたとは認められない。」としてこれを退けました。

会社はどうすべきだったか?

判決は同時に、「被告会社において、Bに対し、利用者等のプライバシーや名誉を侵害してはならないことについて、研修を行ったことを示す証拠はない。」と認定しています。ということは、逆に会社がこのような研修をしっかりと実施していたのであれば、Bの行為は抑えることができなかったと主張し易かった、といえるでしょう。ネットは非常に便利であり、無くてはならない現代のツールですが、使い方次第で凶器にもなり得る面もあります。全ては使う人の心がけ次第。特に不特定多数に繋がる情報発信には、当事者である職員だけでなく、管理者も細心の注意を払うようにしたいものです。