連載コラム

最終更新日 2016/06/06

紙に書いたものは紛失リスクを避けられない

訪問介護やデイではご利用者に関する「連絡帳」をよく用います。玄関先に置いておき、「今日は朝服薬できなかったので昼に二回分与えてください」といった用件やその日の出来事を伝える等、交換日記の様に使います。誰でも気軽に書き込み、また読むことができるので、それはそれで便利なツールなのですが、一方で情報が漏えいしたり、ノートそのものが紛失する危険は避けられません。次のケースを見てみましょう。

訪問介護での連絡ノート紛失ケース

要介護度3、認知症、75歳女性のAさん。近所に住む長女のBさんが頻繁に通い、複数の訪問介護サービスとデイサービスを受けながら一人暮らししていました。ある日Aさんは、早朝、デイサービスの送迎車を待っている間、甲事業所のヘルパーが目を離した隙に転倒。第一腰椎を圧迫骨折してしまいました。直ちに病院へ搬送され、治療を受け在宅復帰はできたものの、殆ど寝たきりとなってしまったAさん。ところが、その日以降に入ったヘルパーにより記載された連絡ノートには、次の様に書いてあったのです。「A様は、ふらつきながらも手すりにつかまり出迎えてくださいました。」Bさんは目を疑いました。「事故以来、母が殆ど動けない状態であることはヘルパーを始め関係者は皆知っているはず。それにも拘わらずこんなことを平気で書くなんて、自分達に都合のいいことをねつ造しようとしたのではないかしら…」そう思っていた矢先、事件は起きたのです。BさんがAさん宅を訪問したところ、いつもの場所にノートが無いことに気付きました。「どこにいったんだろう」と探し回り、ちょうどその時間に入っていたヘルパーにも尋ねたところ「わからないです」と言っていましたが、結局、なんとヘルパーのカバンの中からノートが出てきたのです。そのヘルパーは「私は入れていない。気づかないうちに入っていた。」等と弁解しましたが、Bさんとしては「事業所から回収するよう指示されたのではないかしら」と疑わざるを得ませんでした。

疑いの思いはどこまでも広がる

Bさんはこの事故以来、事業所の態度が急によそよそしくなり、ヘルパー全員が、自分に対して距離を置く様になったと感じました。本件事故の責任問題に関する話を少しでもすると、その事業所のサ責(サービス提供責任者)は「うちを訴えるんですか?」と逆に詰め寄りプレッシャーを与えてくる始末…「自分達が被害者であるにも拘わらず、なぜあたかも悪人、クレーマーの様な扱いをされなければならないのか」と、涙ながらに訴えておられました。

こうした、不幸な突然の事故をきっかけに事業所・家族間の信頼関係が崩れてしまうケースは実務でも多々見受けられるのですが、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の言葉通り、一度疑いの目を持ってしまうと、あらゆる事が事件の「隠蔽」や「歪曲」目的でなされている様に見えてしまうこともあります。

本事例のノート紛失事件は、流石に「事業所の指令でノートという証拠物件を隠滅しようとした」というあからさまな隠ぺい行為では無かったと思われますが、考えてみるとこれは「ノート」という紙媒体だからこそ起きた事件であり、紛失リスクであったということが分かります。

IT管理はセキュリティ面でも紙媒体に勝る!

日々更新されていくご利用者に関する貴重な情報のやり取り。これがもし、携帯電話等で作動するコミュニケーション・アプリでなされていたとしたら、どうでしょうか。当然ながら、履歴は各関係者の端末に残るので、完全に紛失するということはありません。字が下手で読み取れない、誰がいつ書いたか分からないということも無いでしょう。また、紙のノートであれば誰でも見ることができますが、アプリであればログイン規制をかけることで第三者の閲覧もブロックできます。情報漏えいの一番のルートは、実は紙媒体と言われています。モノの形を取らないIT技術の方が、トータルでみると安全性が高く有効であることが多いといえるのです。ところで事業所からすれば、いつでも気軽にコミュニケーションが取れる方法を導入することで、ご家族からの注文や苦情が増え、対応しきれないことを懸念されるかもしれません。ですが、その様な状況だからこそ、むしろ積極的に連絡を取り合い、疑惑の芽を小さい内に摘んでいく地道な作業が必要となるのです。本事例でも例えば「母は動けないはずですが?」と言った疑問のメッセージがBさんからきたら、少なくともその点で不信を持っていることが分かり、解決に向けた大きな手掛かりとなるのです。双方の思いや認識をできるだけ「見える化」していくことが、信頼関係形成の鍵となります。