連載コラム

最終更新日 2016/05/12

ショートステイは特に注意!ご利用者の「帰宅願望」

こんにちは、介護弁護士の外岡です。前回、デイサービスでの連絡帳を中心としたやり取りについてお話しました。今回はショートステイ(短期入所生活介護)で起きたある事件をご紹介します。

ショートステイでの離設・事故ケース

要介護度3、認知症、84歳女性のAさん。一人娘のBさんが実家で同居し、日中は仕事をしながら介護をして二人で生活していました。Bさんは、昼は仕事、夜は母の介護というハードな生活に疲れ、ケアマネージャーの勧めもあり近所に新しくできたショートステイを一度利用することとしました。ところが初日に宿泊した翌朝、Aさんが施設建物の玄関先で仰向けに倒れているところをスタッフに発見されました。搬送先の病院では腰椎圧迫骨折と肋骨の骨折でしたが、玄関の鍵は施錠されており、「Aさんはどうやって外に出たのだろう?」とスタッフは首をひねるばかり。施設はBさんに「A様がしきりに家に帰りたいと言っておられたことは確かだが、就寝前の見回りでは確かに居室におられた。私たち現場のスタッフがもっとよく観察していればよかったのですが…」とご説明しましたが、Bさんは「家に帰りたがっていたのですか?だったらそのとき都度教えて下されば、無理に施設に閉じ込めることはしたくないので連れて帰ったのに。これは施設側の見守り義務違反ではないのですか。」と言い、納得されない様子でした。

これは実際に筆者が弁護士として受けた相談をベースとした事例なのですが、娘のBさんは「母は長年飼っていた犬を何より大事にしていて、夕方になると「犬の散歩に行かなくちゃ」とそわそわしていました。きっとショートステイでもその様なことを周りのスタッフに言っていたのではないかと思います。」と、具体的なAさんの行動パターンも教えてくれました。

そうした話を聞いて筆者が改めて実感したことは、「当然ながら利用者も一人の人間であり、生活パターンや行動の背景にはそれまでの人生が全て関わっており、情報量としては膨大である。」という事実です。

介護事業所としては、おひとりずつその考え方や生活歴等をしっかり理解・把握した上で適切なケアを個別に提供できることが理想ですが、現実に何十人ものご利用者を抱える中では中々難しくつい表面的な理解となりがちです。象徴的なのが認知症ご利用者の「帰宅願望」ですが、これは介護現場において永遠の課題であるといえるでしょう。特に特養等、施設の入所初期の時期や、数日しか泊まらないショートステイでは悩ましい問題です。

もっとも、IT技術の進化に伴い、工夫できることも格段に増えたといえるのではないかと思います。例えば今回のケースでも、もし施設職員とBさんがコミュニケーション・アプリで常時密に連絡を取り合っていたとしたら…?

ご利用者の精神状態が不安定になる時間帯が夕方以降と分かっていれば、例えば現場職員が1時間おきに簡単な状況レポートを送信する様にします。ご家族のBさんは携帯のアプリから、「お母様が『家に帰って犬の散歩に行かないと』としきりに言っておられます。」といった情報を見て、自分の親が今どんな状態かをリアルタイムで知ることができます。短いメッセージのやり取りだけで全てを伝えることは勿論不可能ですし、お伝えしたところで解決することも無いかもしれませんが、ご家族にしてみれば何も経過報告が無い中で突然事故の知らせが来るよりは、よほどましであることは明らかでしょう。日常の介護の様子が見えることで、「大変な中よくやってくれている」と、施設に対する信頼が増すのです。

報告を見たBさんは、例えば「お手間を取らせております。母の興奮状態が収まらない様であれば、私が様子を見に行きます。」と返信したとします。それを見た現場職員は、「いざとなればご家族がフォローしてくれる」と心強く思え、心の余裕ができご利用者への接し方も変わってくるかもしれません。或いは、「うちの親はこうした声掛けをすると落ち着くんです。」といった、ご家族ならではのアドバイスを得られることもあるでしょう。この様に介護現場とご家族が密なコミュニケーションを取ることで、様々な効果が期待できるのです。